日本芳香族工業会-JAIA-

Q1.芳香族とは?

Q1-1 芳香族とは何ですか?
炭素と水素からできている化学物質の中で、物質の構造にベンゼン核(6員環、亀の甲)を持つ化合物を芳香族といいます。
ベンゼン核ベンゼン核
ベンゼン核は、このような形に描かれる事が多いです。
Q1-2 芳香族にはどのようなものがありますか?
芳香族の代表的な物質として、ベンゼン、トルエンキシレンナフタレンなどがあります。
Q1-3 芳香族製品の原料は何ですか?
芳香族製品の原料は3種類あります。
① 粗軽油/コールタール…石炭を乾留してコークスを作るときに粗軽油やコールタールが副生します。粗軽油やコールタールは多種類の芳香族化合物の混合物であり、精製分離して製品とします。石油化学工業が発達する昭和30年代以前は、代表的な化学工業となっていました。

② 分解ガソリン…ナフサを熱分解してエチレンやプロピレンを作るときに、副生物として分解ガソリンができます。分解ガソリンにはベンゼン、トルエン、キシレンが多量に含まれるので、芳香族の重要な原料となっています。

③ 改質油…石油精製には、ガソリン留分のオクタン価をあげるために、炭化水素の構造を変える改質装置があります。改質された油には、オクタン価が高いベンゼン、トルエン、キシレンが含まれるので、芳香族の原料としても使用されます。

Q2.タール製品とは?

Q2-1 タール製品とは何ですか?
Q1-3で説明した粗軽油やコールタールから作られた製品をタール製品といいます。
ベンゼン、トルエン及びキシレンは、主要な原料が石油化学と石油精製に移ったので現在はタール製品に含めません。
Q2-2 タール製品にはどのようなものがありますか?
代表的な製品として、ナフタレンタールピッチクレオソート油アントラセンフェノールクレゾール等があります。フェノール及びクレゾールは、現在はベンゼンを原料に化学合成で大量生産されています。

Q3.ベンゼンとはどのようなものですか?

Q3-1 ベンゼンとは何ですか?
無色透明の芳香を有する液体です。物性的には揮発性が高く引火点が低い特徴があり、発ガン性もあるので、取扱いには注意が必要な物質です。また、ベンゼンは、炭素と水素各6ケが結合した最もシンプルな6員環構造をしています。ベンゾールと呼ばれることもあります。なお、ベンジンはナフサ留分のひとつでベンゼンとは異なるものです。
ベンゼンベンゼン
Q3-2 ベンゼンは何に使われますか?
ベンゼンは、基礎化学原料として多方面の分野で使われています。代表的な使われかたを紹介します。
① 合成樹脂、合成ゴム
ベンゼンとエチレンを原料としてスチレンを作ります。このスチレンを単独又は他の化学物質と重合させると樹脂やゴムになります。

② ナイロン繊維
ベンゼンから化学反応でシクロヘキサン→カプロラクタムとし、このカプロラクタムを重合させたものが6-ナイロンと呼ばれます。
他にシクロヘキサンからヘキサメチレンジアミンを作り、アジピン酸と反応させた6,6-ナイロンがあります。

③ フェノール(化学原料)
ベンゼンをプロピレンでアルキル化しクメンとした後、これを酸化してフェノールとします。フェノールは、合成樹脂、染料、農薬などの原料として使われます。また、単独でも消毒剤として使われています。

④ 無水マレイン酸
ベンゼンを酸化すると無水マレイン酸が得られます。無水マレイン酸は不飽和ポリエステル樹脂等の合成樹脂および樹脂改質剤等に使用されています。

Q4.トルエンとは?

Q4-1 トルエンとはどのようなものですか?
トルエンは、ベンゼンと同様に芳香を有する無色で透明な液体です。ベンゼンが炭素と水素各6ケが結合した最もシンプルな6員環構造をしているのに対して、水素の一つをメチル基(-CH3)で置き換えた構造をしています。物性的には揮発性が高く引火点が低い特徴があり、取扱いには注意が必要な物質です。
トルエン
Q4-2 トルエンは何に使われていますか?
トルエンは、溶剤として使用される他、多方面の分野で使用されています。代表的な用途を紹介します。
① 溶剤
トルエンは塗料、インキ、接着剤等の溶剤として広く使用されています。

② ベンゼン
トルエンはベンゼンに比べて化学原料としての需要が少ないため、不均化反応や脱アルキル反応によりベンゼンに変換されます。

③ キシレン
トルエンはベンゼンに比べて化学原料としての需要が少ないため、不均化反応によりキシレンに変換されます。

④ トリレンジイソシアネート(TDI)
TDIは合成樹脂ポリウレタンの原料です。TDIはトルエンをニトロ化した後、水素化してジアミノトルエンとし、さらにホスゲンを吹き込んで合成されます。

⑤ フェノール
フェノールは主にベンゼンを原料として製造されていますが、トルエンからも2段階の酸化反応を経て合成されます。フェノールは、合成樹脂、染料、農薬などの原料として使われます。
また、単独でも消毒剤として使われています。

⑥ クレゾール
トルエンをプロピレンでアルキル化した後、これを酸化してクレゾールとします。クレゾールは、合成樹脂、染料、農薬などの原料として使われます。
また、単独でも消毒剤として使われています。

Q5.キシレンとは?

Q5-1 キシレンとはどのようなものですか?
キシレンは、ベンゼンやトルエンと同様に芳香を有する無色で透明な液体です。ベンゼンが炭素と水素各6ケが結合した最もシンプルな6員環構造をしているのに対して、水素の二つをメチル基(-CH3)で置き換えた構造をしています。通常キシレンは混合キシレンを意味し、キシレンの3つの異性体であるオルソキシレン、メタキシレン、およびパラキシレン、ならびにエチルベンゼンを含有する混合物です。
オルソキシレンメタキシレンパラキシレンエチルベンゼン
Q5-2 混合キシレンは何に使われていますか?
混合キシレンは、塗料、インキ、接着剤等の溶剤として広く使用されています。化学原料として使用される場合には各異性体に分離生成して使用されます。
Q5-3 オルソキシレンは何に使われていますか?
オルソキシレンは主に酸化反応により無水フタル酸に変性されます。無水フタル酸はビニル樹脂(ポリ塩化ビニル)の可塑剤の原料として広く使用されるとともに、染料や香料等の製造に用いられています。
Q5-4 メタキシレンは何に使われていますか?
メタキシレンはその多くが異性化反応によりオルソキシレンあるいはパラキシレンに変性されます。一方、その一部は酸化してイソフタル酸とし、可塑剤やポリエステル樹脂の原料に使用されています。
Q5-5 パラキシレンは何に使われていますか?
パラキシレンはそのほとんどが酸化反応により高純度のテレフタル酸またはテレフタル酸ジメチルに変性されます。これらはいずれもポリエステル繊維およびポリエステル樹脂の原料となります。
Q5-6 エチルベンゼンは何に使われていますか?
混合キシレン中のエチルベンゼン異性化装置を経てパラキシレンやベンゼンに変換されます。また、一部はスチレンに変換され合成樹脂の原料として使用されています。

Q6.ナフタレンとは?

Q6-1 ナフタレンとはどのようなものですか?
ナフタレンは石炭を乾留したときに得られるコールタールを蒸留することにより得られ、規格が純度95%以上であるので、一般に95%ナフタレンといわれています。95%ナフタレンはさらに精製工程を経て精製ナフタレンになります。ナフタレンはベンゼン環が2つ縮合した化学構造を有し、融点が約80℃の無色の板状結晶で昇華しやすい性質があります。
ナフタレン
Q6-2 ナフタレンは何に使われていますか?
95%ナフタレンの全需要のうち約70%は無水フタル酸用です。精製ナフタレンは防虫剤、染料および有機顔料等の原料に使用されています。

Q7.タールピッチとは?

Q7-1 タールピッチとはどのようなものですか?
タールピッチはコールタールの蒸留で得られる無数の縮合多環芳香族の混合物です。タールピッチはその軟化点により軟ピッチ(約70℃以下)、中ピッチ(70~85℃)、および硬ピッチ(85℃以上)に分類されます。国際がん研究機構IARCのグループ1(ヒトに対して発がん性あり)であり、その取扱いには注意が必要です。
Q7-2 タールピッチは何に使われていますか?
タールピッチは炭素材、粘結剤、防水、防錆剤等に使用されています。特に、コークス配合用および電極用炭素材が主な用途です。コークス配合用としては鋳物用コークスの強度を増すために粘結剤として原料炭に配合されるものが主であります。また、電極用にはアルミニウム精錬用、製鋼用黒鉛電極用などがあります。

Q8.クレオソート油とは?

Q8-1 クレオソート油とはどのようなものですか?
クレオソート油はコールタールを蒸留して得られた留出物から、ナフタレンフェノール類等を回収した残りの成分を、規格に応じて配合された製品です。主な成分は2~3環芳香族炭化水素です。国際がん研究機構IARCのグループ2A(ヒトに対しておそらく発がん性あり)であり、その取扱いには注意が必要です。
Q8-2 クレオソート油は何に使われていますか?
クレオソート油の90%以上はカーボンブラックの原料として使用されています。その他の用途としては鉄道枕木、電柱等の木材防腐剤として使用されています。

Q9.アントラセンとは?

Q9-1 アントラセンとはどのようなものですか?
アントラセンはコールタールを蒸留してタールピッチを製造する際に副生する重質油から回収される成分で、ベンゼン環が3つ縮合した化学構造を有しています。融点が216℃の無色の板状結晶です。
アントラセン
Q9-2 アントラセンは何に使われていますか?
アントラセンは酸化されてアントラキノンに変性され、染料として使用されます。また、アントラセンはカーボンブラックの原料としても使用されています。

Q10.フェノールとは?

Q10-1 フェノールとはどのようなものですか?
ベンゼンが炭素と水素各6ケが結合した最もシンプルな6員環構造をしているのに対して、水素の一つを水酸基(-OH)で置き換えた構造をしています。融点が41℃の白色塊状結晶です。大気中から水分を吸収して液化する性質があります。特異臭があり、腐食性があります。
フェノール
Q10-2 フェノールは何に使われていますか?
フェノールの主な用途を次に示します。
① 消毒剤
フェノールはそれ自体で消毒剤として使用されています。

② フェノール樹脂
フェノールとホルムアルデヒドを酸またはアルカリ触媒の存在下で反応させ、さらに加熱すると電気絶縁性が良好でかつ耐熱性にも優れた樹脂が得られます。

③各種原料
フェノールはアニリン、アルキルフェノール、カプロラクタム(ナイロンの原料)、さらには多くの農薬や医薬品の原料に用いられます。

④ビスフェノールA
フェノールとアセトンを酸触媒で反応させるとビスフェノールAが得られます。これらはエポキシ樹種やポリカーボネート樹脂(PC)の原料として使用されます。PCは代表的なエンジニアリングプラスチックで、透明性、耐磨耗性、耐疲労性に優れています。ガラスの代用のほか光学用途やコンパクトディスクなど多方面で使われています。

Q11.クレゾールとは?

Q11-1 クレゾールとはどんなものですか?
フェノールのベンゼン環の水素の一つをメチル基(-CH3)で置き換えた構造をしています。メチル基の位置により、3つの異性体があり、それぞれをオルソクレゾール、メタクレゾールおよびパラクレゾールと呼んでいます。メタクレゾールは無色の液体であり、オルソおよびパラクレゾールは白色の結晶です。クレゾールは現在はトルエンを原料にして大量に合成していますが、タール成分からも回収できるのでタール製品のひとつにも数えられています。
Q11-2 クレゾールは何に使われていますか?
クレゾールは、合成樹脂、染料、農薬などの原料として使われます。中でもオルソクレゾールから作った合成樹脂は半導体ICの封止材として使われています。

また、単独でも消毒剤として使われています(フェノールより殺菌力が強い)。

Q12. ベンゼンとベンジンは同じものですか?

ベンゼンとベンジンは異なる物質です。
ベンゼンについてはQ3の説明を参考にしてください。

ベンジンは石油を蒸留、精製して得られる沸点範囲が30~150℃の製品であり、ガソリンとほぼ同じものです。クリーニング溶剤、ライター用燃料、染み抜きなどに使用されます。

ベンゼンはヒトに対して強い発がん性がありますからベンゼンとベンジンを取り違えて、ベンゼンで染み抜きなどは決して行ってはいけません。

Q13. 薬の正露丸の成分に日局クレオソートと記載されています。これはQ8のクレオソート油と同じものですか?

両者は製造原料および成分に大きな違いがあり、異なる物質です。

日局クレオソートはブナ、モミジ、カシ等の木材を乾留してえられる木タールを蒸留し、水より重い成分を集め、分留、蒸留を繰り返し、精製して得られるものです。

これに対して、クレオソート油はコールタールを蒸留して得られた留出物から、ナフタレンフェノール類等を回収した残りの成分を、規格に応じて配合された製品です。主な成分は2~3環芳香族炭化水素です。国際がん研究機構IARCのグループ2A(ヒトに対しておそらく発がん性あり)であり、その取扱いには注意が必要です。くれぐれも薬と間違えて服用しないよう注意してください。

Q14.「芳香族」の名前の由来は何ですか?

ベンゼン環をもつ有機化合物にはバニリン(バナナの香りの成分)など、芳香(Aroma)があるため、芳香族と呼ばれた。ただし全ての芳香族に芳香があるわけではありません。 ・芳香族という呼称は、19世紀ごろまで芳香のある化合物の共通構造であると考えられたことが始まりです。 その後、芳香族の研究が進むにつれて、臭いものや無臭のものでもベンゼン環を有することが知られました。

Q15.芳香族の特徴を教えて下さい。

芳香族は脂肪族に比べて一般的に安定していることが特徴の一つです。 また、ベンゼン(Benzene)、トルエン(Toluene)、キシレン(Xylene)が代表的な化合物であり、それぞれの頭文字をとって総称としてBTXと呼ばれています。

Q16.製品安全データシート(SDS)はどこで入手できますか? 

日本芳香族工業会では、会員企業のSDS作成の利便を図るとともに会員企業製品の安全な取扱いを啓発する為、1993年に初版を作成し適時改訂を加えながら要望に応じて公開しています。
   →製品安全データシート(SDS)

Q17.国内で芳香族はどのぐらい生産されていますか?

日本芳香族工業会では、芳香族及びタール製品の生産量、輸出入量を集計し公開しています。 
   →公開資料

Q18.芳香族化合物は、人体や環境に影響のある物質ですか?

芳香族化合物自体には、人体や生物にとって有害な物質が多く、中毒を起こしたり、発がん性をもっているものも多くあります。 芳香族製品の製造過程においては、基本的に密閉式の装置や設備で製造・貯蔵・出荷され、僅かに漏れ出てくるものも回収してリサイクルしたり、分解して無害化することにより、人体や環境への影響を防いでいます。(最終消費者に届くまでには、樹脂などの極一般的な製品となっています)

Q19.どのようにしてつくられるのですか?

原油や石炭から回収されるコールタールを原料として、主に蒸留工程や熱分解工程を経てつくられます。

Q20.「蒸留」とは何ですか?

混合物の中の成分を沸点の違いによって分離・回収する方法です。蒸留塔と呼ばれる背の高い塔の中へ、加熱した原料を入れると、沸点の低い(蒸発しやすい)物質は気体となって塔の上部へ、また、沸点の高い(蒸発しにくい)物質は液体となって塔の下部へ向かうことを利用し、分離・回収するものです。塔の内部では、複数の成分の間で熱のやりとりが行われており、その効率を上げるため、塔内部には多くの棚板が設けられています。

Q21.「熱分解」とはなんですか?

熱を加えることで物質を分解し、より小さな分子の物質が得られる反応。石油化学におけるエチレン・クラッキング(ナフサからエチレンなどを採取する工程)が代表的なものです。

Q22.最終的には、私たちの身の回りのどんなものになるのですか?

最終的には、種々のプラスチック製品、衣料品、塗料などになります。

Q23.JAIAは、どんな会社の集まりですか?

石油精製、石油化学、石炭化学の事業を営んでいる会社を中心にした集まりです。